みぞれなべ

御園の独白

泥抜きです。初夜の明け方。

暖かな布団の中で、首を伝う鎖にぶら下がった指輪を手繰り寄せる。光を落とした真っ暗な部屋にあってもなお黒く見える石が真ん中に一つはめこまれている。その指輪を簡素、と感じるのは御園があまりにきらきらしたものを見てきてしまったからなのは、最近"学校"に通っていて少しずつ分かってきた。

以前の持ち主ならば、少し御園がそれに視線を止めただけであらゆるものを買ってくれた。これよりきらきらした指輪、きれいな着物、美味しい果物、お金で買えるものなら、何もかも。御園がそれを欲しいと言ったことなんて一度もなかったけれど、溢れるほどたくさんのものをくれた。

けれどこの指輪は、そういうものではない。これはただ御園を飾るために渡されたものではない。

今の持ち主。彼のことがずっと不思議だった。どうして御園に意見を求めてくるのだろう。着飾らせて愛でるのも、虐げて殴るのも、殺すのだって好きにすればいい。それだけの対価を、彼は支払ったはずだった。
彼が他の少女のことを見ているとどうしてか我慢ができなくて、つい分を超えたことをしてしまうけれど。

寝返りを打って、指輪を薬指にはめてみる。鎖が食い込んで、少し痛かった。
これは約束だ。御園が彼のものであって、そして、彼が御園のものであるという約束。こんなものがなくても買われたあの日から、御園はあの人のものだった。だからこれは、ただ、彼が御園のものになるという約束の証。
誰か、他の人を見ていたら怒ってもいいという、許可の証。

そう考えると、奇妙な緊張が背筋を伝った。同じ布団で眠る彼に、明日どんな顔をしたらいいんだろう。
考えていても何も思いつきそうにないから、また布団の中へと潜り込んだ。眠りにつく前に、明日は彼より寝坊できるといいとぼんやり思った。